最近M&A仲介会社からの「御社指名」「御社を買いたい企業があります」といった内容の手紙やDM(ダイレクトメール)が大量に届く、しつこくて困るといったお声をよく耳にします。会社だけでなく、社長個人の自宅にまで届いているケースもあるようです。
そこで、当記事では、このようなM&Aの営業DMや手紙がどのような目的で送られてくるのか?、連絡してしまうとどうなってしまうのか?など気になるポイントを解説します。
M&A仲介会社からの手紙やDM(ダイレクトメール)が来た際に、どのように対応すべきか適切に判断できるようになりますので、ぜひ参考にしてください。
目次
M&A仲介会社から手紙・DM(ダイレクトメール)が大量にやってくるのはなぜ?

まずは、M&A仲介会社から手紙・ダイレクトメール(DM)が大量にやってくるのはなぜかを解説します。
手紙・DM(ダイレクトメール)による営業の現状
手紙やDMが増えている要因は、「M&A仲介業者の数が年々増加していること」であると考えられます。
その理由として、新規参入者の増加や大手M&A会社出身者の独立などにより、M&Aの仲介業者が増えていることが一つの理由であると考えられます。
中小企業庁公表の「M&A 支援機関登録制度」によると、2022年時点の登録件数が2823件であるのに対し、2023年時点では2980件となり、登録件数は増加しています。
参考:
M&A支援機関登録制度 – 令和3年度の登録状況について(令和4年3月10日現在)
M&A支援機関登録制度 – 現在の登録状況について(令和5年2月16日現在)
実際に、M&A仲介会社が手紙(DM)やメールによる営業活動を頻繁に行っているという口コミは、多く見受けられます。
M&A総合研究所ってとこから手紙来てウチの会社売らないかって。 ふーん。馬鹿にしてんのかね? ハゲタカみたいな連中に会社売るくらいだったら店畳むよ。
X(旧:Twitter) – ポスト
自宅まで郵便を送ってくる会社。何度断ってもお構いなしで。
迷惑でしかない
jpnumber
M&A総合研究所から「貴社ご指名で資本提携のご要望を……」という封書が届きました。
Yahoo!知恵袋
会社宛てにメールをお送り致しました、確認いただけましたでしょうか?とのこと。非常にダラダラとした話し方で相手にしている時間がない為、ご対応はさせていただきましたが最後は切りました。皆様ご注意を。
電話帳ナビ
このように、M&A仲介業者の数が年々増加していることで、手紙やDMが増えている現状があります。
「御社指名」「御社を買いたい会社があります」は本当なのか?
M&Aの営業手紙やDMについて、「御社を買いたい会社があります」や「貴社ご指名で資本提携のご要望をいただいています」といった、「御社指名」の内容が記載されているケースがあります。
このような「御社指名」は営業文句である場合が多いため、注意が必要です。
全くの嘘ではなく、譲受企業の希望業界にマッチしていたり、企業規模がマッチしていたりするなど、一部条件が当てはまっているということはありますが、実際に自社を指名されている可能性は低いです。実際に、M&A仲介業者が企業規模の大小や業種にかかわりなく、また状況も鑑みず、手紙やDMを送っていることがうかがわれます。
「御社指名の企業があります」という言い回しは、早い話が営業文句であり、信憑性はあまりありません。現に、M&A業者である筆者の会社にも、同内容のDMが毎週のように届いています。大量に送りつけるDMで、一社一社に指名がかかっているわけはありません。
「御社指名」は本当!? M&A業者から届くDMの正体とは?
もし、本当に「御社を買いたい」と決まっている場合、捨てられてしまう可能性のある仲介会社経由の手紙やDMなどではなく、信用力のある銀行などの機関に仲介を依頼することが一般的です。
そのため、M&A仲介業者の営業手紙による「御社を買いたい会社があります」は、鵜呑みにしないことをおすすめします。
基本的な営業方法は、数をこなすこと
M&A仲介会社の基本的な営業方法は、「とにかく数多くの企業にアプローチをして、契約に繋げよう」とする方針であることが多いです。
特に、安定して売上や黒字経営である企業や、複数店舗を展開している企業に対して、頻繁に手紙やDMによるアプローチが行われる傾向があります。
上記に当てはまる企業について、複数のM&A仲介業者から営業が集中することも少なくありません。
自宅や会社に届く手紙・DM(ダイレクトメール)の情報元は?

M&A営業の手紙・ダイレクトメール(DM)の情報元は、以下の4つが主だと考えられます。
- 東京商工リサーチ
- 帝国データバンク
- 各種業界団体
- 自社作成の独自営業リスト
また、DMが経営者の自宅に来る場合は、代表取締役の住所を謄本で確認したり、リサーチ会社の企業リストで代表者個人の住所を取得したりしている可能性が高いです。
手紙やDM(ダイレクトメール)に書いてある連絡先に連絡をしたら、どうなるのか?
M&Aの手紙・DM(ダイレクトメール)に書いてある連絡先に連絡した場合、まずは営業担当との面談をすることを勧められます。
M&Aに興味があるといった温度感で面談を申し込んだとしても、面談では「会社を売ってもらうこと」を目的に話を進められ、初回であっても「秘密保持契約」や「仲介契約」を結ぶよう求められるケースが多いです。
「秘密保持契約」や「仲介契約」を結ぶと、会社を売却することを前提としてその後の手続きが進行してしまうため、会社を売却する意思が固まっていない段階でそのような契約を結んでしまうと、後々「売るつもりじゃなかったんだけどな」「もっと会社を成長させてからM&Aを検討すべきだった」などの後悔を生んでしまいます。
そのため、初回面談では「一度検討します」と伝え、持ち帰ることをおすすめします。一度持ち帰った上で様々な事情を十分に考慮し、会社を売却したいと意思を固めてから、改めて業者選定を行うようにしましょう。
なお、仮に面談時に返答を持ち帰ったとしても、営業対象リストに追加され、その後しつこく架電がなされるなどの事例も報告されています。M&Aに興味があるくらいの温度感ではそもそも連絡しないようにすることも重要です。
信頼できる会社か?判断するポイント

M&Aの手紙・DM(ダイレクトメール)を送ってきた会社が、信頼できるかどうかについて、判断するポイントは以下の6つです。
- 評判や実績を確認する
- 一方的で強引な営業をする会社はNG
- メリット・デメリットの両方を伝えてもらえるか
- アドバイザーの知識や経験
- 料金体系は明確で良心的か
- 法務・税務・会計などに関する専門家の在籍や提携
それぞれ詳しく解説します。
評判や実績を確認する
信頼できるか否かを判断するうえで、大切なのは、M&A仲介業者の評判や実績です。
M&Aは、経営者にとって一世一代の大勝負です。
仲介を頼む場合は、実績が豊富な企業へ頼んだ方が賢明です。
実績が豊富である会社は取引先も多い可能性が高く、自社とシナジーのある企業を選定し、マッチングしてもらえる可能性が高くなります。
また、自社の業界でのM&A実績が少ない企業は、その業界において十分なネットワークを保有していないということも考えられます。
M&Aの手紙やDMからでは、上記は分からないケースが多いため、必ず評判や実績を調べるようにしましょう。
一方的で強引な営業をする会社はNG
一方的で強引な営業をする会社はおすすめできません。
M&A業界では、自社の希望・要望を全く聞き入れず、強引に話を進めようとする営業が居ることも事実です。
このような営業担当に依頼してしまうと、満足いくM&Aが実現できない可能性が非常に高いため、一方的な営業をする会社には、仲介を頼まないようにしましょう。
メリット・デメリットの両方を伝えてもらえるか
M&Aを実施するうえで、メリットはもちろん、デメリットも伝えてもらえるか?は判断基準として重要です。
企業・事業を統合するうえで、メリットだけしか伝えられていない場合、企業統合後に思わぬミスマッチが発覚し、後戻りができなくなる可能性があります。
メリットだけでなく、デメリットも合わせて判断材料として提供してもらえると、そのようなミスマッチが起こる可能性は低くなるでしょう。
また、そもそもM&A仲介は買い手からも手数料を徴収するため、利益相反の構造を持っています。この点についても十分な説明が無い場合にはその仲介業者を選ぶことは避けましょう。
→M&AにおけるFA業務とは?M&A仲介との違いや手数料比較
アドバイザーの知識や経験
M&Aの成功は、アドバイザーの手腕にかかっているといっても過言ではありません。
企業が幅広いネットワークを持っていることも大切ですが、アドバイザーの知識や経験が不足していれば、それらのネットワークを十分に活かせない可能性が高いです。
また、ある業界で多くの経験を積んでいる場合であっても、自社が希望する業界の経験が少なければ、満足いく提案を受けられないケースもあります。
担当アドバイザーが、自社の業界における知識・経験が深いかどうかも、判断基準の一つとなります。
料金体系は明確で良心的か
料金体系が明確で、良心的かどうかも大切なポイントです。
M&Aの仲介業において、料金体系が不明瞭であることや、不親切なケースがあります。
成功時に支払われる「成功報酬」だけでなく、作業に着手した際に「着手金」が発生したり、基本合意契約が結ばれた時点で「中間報酬」が発生したりと、報酬の発生タイミングが複数回発生する企業もあります。
また、契約後に仲介が成立しなくても、月額料金が発生する企業もあるため、注意が必要です。
一方で、「完全成功報酬制」の報酬体系を採用している企業であれば、報酬の発生がM&Aの成立時のみであるため、料金体系が明確となり、かつコストも抑えられるため、おすすめです。
法務・税務・会計などに関する専門家の在籍や提携
M&A仲介業者に、法務・税務・会計などに関する専門家の在籍や、提携があるかも重要です。
M&Aの成立後は、「会社法」「金融商品取引法」などの法律や、株式譲渡をする際の税務・会計など、数多くの専門的な知識を必要とします。
これらの専門家がいれば、企業統合に必要な手続きをスムーズに行える可能性が高いです。
M&Aの仲介業者に、弁護士や税理士など、上記分野の専門家が在籍しているか、もしくは提携しているかどうかも、確認しておきましょう。
M&Aの手紙やDM(ダイレクトメール)が多くてしつこい、迷惑だと感じた時の対策!

M&Aの営業手紙やDMが迷惑で困っている場合は、以下の対処法を実践しましょう。
- 中小企業庁へ連絡する
- 郵便物の受取拒否をする
それぞれ詳しく解説します。
中小企業庁へ連絡する
中小企業庁内には、M&A支援機関に係る情報提供受付窓口が設置されています。
これは、登録されているFA(ファイナンシャルアドバイザー)及び仲介業者による、M&Aに関する支援を巡る問題を抱える業者からの、情報提供受付窓口です。
当窓口に提供された情報は、企業を特定されない範囲で「不適切事例」として公表されるほか、対象業者の「登録要件充足状況」の判断材料として利用されます。
多くのM&A仲介会社は、中小企業庁のM&A支援機関に登録しているため、情報提供受付窓口に連絡すると良いでしょう。
M&A支援機関登録事務局内 情報提供受付窓口
問合せ先Eメール:jouhouteikyou@ma-shienkikan.go.jp TEL:03-6867-1478 URL :https://ma-shienkikan.go.jp/inappropriate-cases 受付時間:平日 10:00~17:00 |
郵便物の受取拒否をする
M&Aの営業の手紙やDMについて、郵便物の受取拒否をすることも一つの手段です。
日本郵便(郵便局)に依頼すると、「受取拒絶」の旨を記載し、郵便物が差出人に返却されます。
営業が不要である意思を仲介業者に伝えられるため、有効な手段の一つです。
まとめ
M&A仲介会社から手紙・ダイレクトメール(DM)が大量にやってくるのは、M&Aの仲介業者が年々増加傾向にあるためと考えられます。
また、「御社を買いたい企業があります」「貴社指名」といった内容の手紙やDMは、営業文句であるケースが多いため、注意が必要です。
さらに、そのような手紙やDMに記載された連絡先に連絡してしまうと、「秘密保持契約」や「仲介契約」の締結を迫られるため、一度持ち帰って冷静になって検討するようにしましょう。一度連絡してしまった場合には、その後営業対象リストに追加され、しつこく架電がなされる場合などもあるため、M&Aに興味があるくらいの温度感ではそもそも連絡しないようにすることも重要です。
M&Aについて検討中の企業オーナーの方は、当記事を参考にして、手紙やDMに適切に対処してください。